-Hitman in Oblivion- その2:挨拶仕事




標的の所へ向かう前に、俺はAnvilから東南の海岸沿いを走っていった。
マネージャーからのメモによると、丸腰で新大陸までやってきた俺に対して、護身用の武器を支給してくれているらしい。



辿りついた先は人気のない家だった。
中に入ってみると、実際廃屋のようだ。メモにはここまでしか書かれていないので、
家の中を探索し始めた。



家の中にはショーケースがいくつかあったのだが、2階の私室のショーケースに眼を引くものがあった。
これは…銃か?



間違いない、銃だ。
リボルバーのようだが、見たことのないモデルだ。弾倉は空のようだが、ショーケースの中には弾丸が6発だけあった。



持ち心地は悪くない。この大陸で銃を使うのは非常に目立つだろうが、この大陸の武器に慣れるまでの『組織』からの配慮かもしれない。ありがたく受け取っておこう。



ついでに、タンスの中に放置されていた服の中から俺のサイズに合ったものを頂いた。これで仕事先で、必要以上に目立つことが無くなる。



廃屋から外で出ると、外に待機させていたはずの馬がいなくなっていた。しまった、どうやら紐で繋いで置かなかったせいか自分の馬小屋に戻ってしまったらしい。
徒歩でまたAnvilまで戻らなくてはならないようだ…。



2時間ほどかけてAnvilの入り口まで戻り、再び馬小屋の馬を失敬した。
…タクシーや地下鉄が無いのがここまで不便とは思わなかった。
馬を飛ばしてさっさと目的地へ急ぐとしよう。



街道を沿って馬を走らせてると、道の向こうから妙な人間が走ってきた。…いや、人間じゃない。人とネコを半分ずつ混ぜたような怪物だった。
見たことのない生き物に驚いてると、怪物は俺の前で止まり、人間の言葉で話し出した。



「金さえ出せば、命だけは助けてやる」
怪物は皮の鎧を身に付け、鉄製の片手斧を手にしていた。ただの追いはぎのようだ。
先ほど手に入れた銃の試射をしてみようかどうか考えたが、ここで貴重な弾薬を使うこともないだろう。
俺は手綱で馬を打った。



「待ちやがれ、この野郎!」
後ろから聞こえてくる怒号を無視して、馬を再び走らせた。奴が銃ないし弓でも持っていたなら話は別だが、この広い世界でチンピラにそう付き合う必要も無い。きっと兄貴でもそうするだろう。



追い剥ぎを振り切った後、馬を休ませるために歩いていると、様々な旅行者とすれ違った。先ほどのような半獣人がいれば、皮膚の色が黒い人間もいた。CyrodiilはAmerica以上に人種のサラダボールのようだ。



…Inn of Ill OmenがSkingradの先だから…この道を右に…。



やがて何事もなくSkingradという街に辿り着いた。目標の宿屋はまだまだ先だが、ここらで昼食でもとろうか。

…止めておこう。先ほどのように馬を失いかねない。雨が降ってきたが、俺は雨雲の範囲から抜け出すように馬を手綱で打った。





それから2時間後。ようやくInn of Ill Omenへと辿り着いた。



馬を下りると、馬は今来た道を戻るように歩き出した。Anvilまで戻るつもりだろうか。タフな馬だ。



まだ昼間だからか、宿は閑散としていた。店主が一人に飲んでいる客が1人。
ターゲットのRufioは寝たきりの老人らしい。俺は何食わぬ顔で2階への階段を上っていった。


2階には部屋が2つあった。どちらもカギがかかっていたが、道具さえあればピッキングには困らない。



しかしどちらの部屋も空っぽだった。老人どころか人1人いない。
仕方ない、この主人に聞くとしよう。


1階に降り、店主と話をした。


Rufioという男はいるか?」
Rufio?ああ、あの偏屈爺さんならこの宿に泊まっているよ。ここ何週間ほどね。私が思うに、何かから隠れているねあれは」
「じゃあ、彼はどこに隠れている?彼の昔の友人なんだが、彼のお守りを持ってくるように連絡を受けたんでね。」
「そうかい。彼なら地下にいるよ。私は私室と呼んでいるがね」
店主に警戒心が無かったのは幸いだ。



地下への扉はすぐに見つかった。はしごを降りて廊下を進むと、部屋を2つ見つけた。片方は物置、もう片方はRufioの私室となっていた。

静かに部屋を開けて中を覗くと、広く取られた間取りの隅のベッドでRufioは寝ていた。
ベッドまで静かに歩み寄り、懐から銃を抜いてRufioの頭に向ける。



例え大きな銃声を出してRufioを殺したとして、人里から離れたこの宿から抜け出すことはそう難しいことではない。まさに、新しい『組織』への挨拶代わりの『仕事』だ。

Rufioの頭に向けた銃を下ろす。銃は懐にしまい、代わりに両手でRufioの首を締め付けて持ち上げた。



Rufioは突然の衝撃で目覚め弱弱しく抵抗したが、すぐにぐったりして動かなくなった。
俺はRufioの首を締め付けたままたっぷり2分数えた。店主から見れば、古い友人が気難しい老人に会いに来ただけだ。あまり長くいるとすぐに怪しまれるだろう。



Rufioの体から脈と心音と呼吸が無くなったことを確認し、俺は足早にRufioの私室から出て行った。



はしごを上って1階まで上がると、店主は客がいない事で退屈そうな目を俺に向けた。俺は一度だけ店主に目線を向けて早々に入り口へ向かった。特に警戒はされなかったようだ。



宿から出た俺はCyrodiilの地図を確認した。ここから北に大きな都市があるが、その前にすぐ北西に川が流れていたはずだ。



俺は着ていた服を川に投げ捨て、自前のジャケットに着替えた。あれだけどぎつい色の服を着ていれば、店主や客は服の特徴で俺を覚えたはずだ。これでもし殺人が発覚した場合でも、捜査は遅れるだろう。


さて、後は『組織』の接触を待つだけだ。