5日目:狙われた街





Kvatchへと続く丘のふもとには、10人前後の人々がテントを張っていた。テントの数も多く、まるでちょっとした集落のようだった。1度目にKvatchを訪問した時にはなかったものだ。
ジプシーだろうか?と思っていると、向こうから1人の男が駆けてきた。




「ここから逃げるんだ!衛兵たちが道を確保しているが、彼らが圧倒されるのも時間の問題だ!!」
男は落ち着きなくまくしたてた。一体何があったのか、と尋ねながらも悪い予感を感じていた。
「襲撃されたんだ!昨夜、Deedraたちにね!城門の外に魔界への門が開いたんだ。連中はそこからやってきている…。悪夢を超えた怪物どもが、城壁を乗り越えて次々に入り込んできて、あちこちに群がりながら殺戮と破壊を繰り広げていったんだ」
どうやら皇帝の隠し子の話は、既に暗殺者側にもまわっていたらしい。だが不意打ちを受けたとはいえ、街が一晩で全滅するだろうか?
「なら自分で行って確かめるがいい!Kvatchはもう煙を上げる廃墟だ!衛兵隊長のSavlian Matiusと数人のガードが、ここまでの道を切り開いてくれたんだ。Matiusはあの怪物どもを食い止めるつもりらしいが、無理だ!!こうしている間にもいつ怪物どもが襲ってくるかわかったもんじゃない!お前も早く遠くへ逃げるんだぞ!!」
男は話を終えると、恐ろしいものから逃げるように必死で走って、濃くなってきた霧の中に消えてしまった。



テントの住人たちは私を見ていた。先ほどのやり取りが聞こえていたのだろう。さっきの男の話を肯定するかのように、住人たちは黙っていた。あるいは思い出したかのように、すすり泣く者もいた。
状況は悪いようだ。とにかくKvatchへ急いで、状況を確認しなければ。




丘を登っていくと、昼ごろから濃くなっていた霧が少し晴れてきた。しかし薄くなった霧の先に見えた空は青ではなく、赤黒くなっているのが見えた。遠くから雷鳴が聞こえてくる。
尋常じゃない何かが起こっている。私は腰の鞘に左手を添えつつ、走り出した。




丘の上まで上りきると、Kvatchのボロボロになった城門が見えた。そして城門の隣に、光る鏡のような巨大な門が開いているのも見えた。以前訪問した時も街はボロボロだったが、その時より状況が悪い。
光る門に構えるように、丘にはバリケートが張られていた。そこには衛兵が何人かいたが、1人だけヘルメットをかぶらずにバンダナを巻いている男がいた。彼が衛兵隊長のMatiusだろうか。彼はすぐに私に気づいた。
「下がれ、民間人!ここはお前の来るところではない!すぐに丘のふもとのキャンプに避難するんだ!!」
私は無視して状況を尋ねた。一刻を争う状況だ。必死に逃げる住人を外へ逃がすために戦った彼なら、街の状況に多少は詳しいはずだ。
「我々は街を失った。言えるのはそれだけだ。皆を逃がす時間さえ与えられずに…」
私の装備を見て、多少期待したのかもしれない。彼は簡潔に、状況を説明してくれた。
「街にはまだ生存者がいるんだ。何人か教会にいるはずだ。Kvatch侯爵と従者たちは城に立てこもっている。そして今、我々は彼らを助けに街に入ることはできん。あのゲートが城門を塞いでいる限りな」
話によれば、あの光る門――ゲートから怪物たちが押し寄せてくるそうだ。ゲートは城門を直接塞いでいるわけではなかったが、もしMatiusたちが街に突入している間にゲートから怪物がまた現れれば、すぐふもとにいる避難キャンプの人々が危険にさらされる。



私はMatiusに、Martinについて尋ねた。
「Martinとは、僧侶の事か?私が最後に見たのは、人々を教会へ導いている所だった。彼が幸運なら、まだ人々と共に生きているだろうが…」




「私には方法はわからないが、あのゲートを閉じることはできるはずだ」
Matiusは続けた。彼の部隊がその方法を探るべく、ゲートの中に入っていったそうだが、未だに帰ってこないそうだ。
そこで彼の話は終わった。彼は私に早く逃げろと言ったが、本心では猫の手でも借りたいに違いない。
私は協力を申し出た。




バリケートから動けないMatiusたちに代わってゲートに侵入し、先行したMatiusの部下たちを手伝うのが今回の任務だ。皇帝の後継者を死なせる前に、急ぐとしよう。
私は剣を抜いてゲートに飛び込んだ。