4日目:皇帝と親衛隊

「よぉ、かわいいElfちゃん。キレイな顔して何をしてきたんだい?」
麻作りの服は体を動かすとチクチクとあちこちに刺さって気になる。ベルト代わりの紐…というかロープとあいまって、まるで自分が袋詰めにされた気分だ。
「当ててやろうか?客を取ろうとして衛兵に見つかったんだろう?この街じゃ売春は違法だからな。お前の故郷と違ってな」
手首を締め付ける手錠は鉄製だ。今は両手首が離れ離れになっているので自由に動かせるが、うっとおしいことこの上ない。
「なぁに、ここならあの衛兵たちがお前を買ってくれるさ。代金は出ねえけどなぁ!ハハハハ!」
向かい側の牢屋でさっきからわめいている、DarkElfの男もだ。




私は今Cyrodillで最も大きな刑務所であるInperial City刑務所で服役している。まさかこんな形でInperial Cityの観光名所の1つを訪れるとは思わなかったが。何故こんな事になったのか。半日前の話だ――。







野盗たちの砦から帰還した翌朝、私は戦利品を売り捌き、新しく装備を整えた。野外の活動に欠かせないクローク(マント※1)を購入し、おとぎ話で読んだ北方王朝の血を引くレンジャーのような気分になっていた。
食料や水の調達も済ませ、今日はどこの遺跡を荒らしに行こうかと歩きながら考えていた時だった。




魚の焼ける匂いにつられて、いつの間にかオークの屋台の椅子に腰掛けていた(※2)。保存食は調達したが昼食はまだ済ませていなかった私は、「今日はここで食べるか」と店主のオークにフィッシュステーキを注文した。
店主は新しく魚を捌くと、焼けた石の上に乗せて焼き始めた。しかし焼き石の上には既に焼きあがったステーキがいくつかある。これはもらえないのかと尋ねると、
「ああ、これは他のお客さんのだからね」
と拒否されてしまった。しかし私の他にはフィッシュステーキを待っていそうな人は見当たらない。私のフィッシュステーキは1分経っても裏返しにされることすらなかった。案外焼きが遅いようだ。私は待ちきれず再び焼き上がりをもらえないかと尋ねたが、無視されてしまった。




2分経過。
既に食べられる料理が目の前にあるのに、食べる事ができずに待つというのはなかなか苦痛だ。店主に料金の割り増しを提案したが、やはり焼き上がりのステーキはくれず、ひたすら新しい魚が焼けるのをじっと見守っていた。
この焼きあがっている魚は依然、誰も取りに来る様子は無かった。待っている間に、私のステーキが焼きあがりそうだ。

この時の私は素直に待てばいいものを、空腹と刺激され続ける食欲に負け、気が付くと金貨を店主に投げて既に焼きあがっているフィッシュステーキを頬張っていた。
口の中に広がる淡水魚のうまみを感じ取る間に、ガシャガシャと金属製のブーツが駆けてくる音が聞こえた。




振り向くと衛兵が凄い表情で睨みつけていた。衛兵は剣の鞘を持ち上げながら言った。
「そこまでだ!犯罪者のカス野郎め!!」
衛兵はまくしたてるように、私に罰金を支払うか刑務所に入るかの選択肢を出してきた。つまみ食いをしただけだというのに。しかも私には裁判どころか弁解する権利すら無いようだ。正気か?




というわけで、私は今ここにいる。今思えば、あのステーキを予約していたのは私を捕らえた衛兵だったのかもしれない。罰金はわずか1ゴールドだったが、私は刑務所に入る方を選んだ。刑務所と言っても、実際に服役する時間は翌朝まで。留置所に入れられて反省させられるようなものだ。備え付けの木製テーブルセットには飲み物入りの壺(中身は水)にコップも付いている。夕食・寝床つきの半日刑務所体験と思えば、休暇としてもちょうどいいかもしれない。



「おう、聞こえるか?ガード達がやって来たぜぇ。お前のために!へっへっへっへっへ」
向かいの牢屋のわめき声が聞こえなければ、もう少し快適に過ごせるのだが。
耳を澄ましてみると、DarkElfの男の言うとおり、階上から複数の足音が聞こえてきた。金属製のブーツによるものだ。
DarkElfのひそむような笑い声をかき消すように近づいてくる足音は、私の牢屋の前で止まった。




「ここは…牢屋か?」
身なりのいいローブをまとった老人が、付き添いの衛兵3人に問いかける。見ればわかるだろう。お前は何を言ってるんだ。
「そうです、閣下。我々Bradeだけが知っている秘密の通路に繋がっています。…この囚人は何をしているのだ?ここは立ち入り禁止のはずだが」
閣下?秘密の通路?こいつらは一体何者だ?
衛兵の1人が私を壁際に下がれと命令した。大人しく従っていると、衛兵たちはぞろぞろと牢屋の中に入ってきた。



「お前…見たことがある…」
閣下と呼ばれた身なりのいい老人が、私に話しかけてきた。
「お前は私の夢のお告げに何度も現れたのだ…」
それは単なるデジャヴだろうと言いたかったが、老人は何やら事の次第を簡単に話し始めた。
王宮が襲撃されたこと、王子である彼の息子たちが全員暗殺者に襲われ、おそらくは殺されたこと。そして自分の身も狙われ、暗殺者から逃げている最中であること。衛兵たちの空気から察するに、どうやら真実のようだ。この衛兵たちはおそらく、この皇帝閣下の親衛隊なのだろう。
皇帝が私に何を望んでいるのかはわからなかった。皇帝自身もわからないようだ。




牢屋の壁を調べていた兵士の1人が何かのスイッチを操作していたらしく、壁がゆっくりと持ち上がって通路が現れた。皇帝と親衛隊たちは奥へと進んでいく。
皇帝は私が思うように行動すればいい、というような事を言った。せっかくだからついていく事にしよう。王族を皆殺しにしようとしている暗殺者たちが相手ならば、遅かれ早かれこの刑務所も必ず調べられるはずだ。



親衛隊は私が後ろからついてくることに不満と疑いを感じているようで、私を警戒しながら皇帝を奥へと導いていく。




石造りの遺跡跡のような場所に出た。ここは一体どこなのだろうかと思っていると、暗がりから突然何者かが襲い掛かってきた。先頭を進んでいた親衛隊の1人は素早く剣を抜いたが防御までは間に合わず、ダガーの一撃で倒れてしまった。




残りの親衛隊も剣を抜くが、奇襲で1人失ったことに動揺してすぐには動けないようだった。暗殺者の方も奇襲専門なのか、慎重にダガーを構えてすぐには仕掛けなかった。
その横で私は暗殺者を殴り続けたが、まるで意に介していない風だった。




やがて親衛隊が2人ががりで暗殺者を始末し、皇帝に先を急ぐよう促した。殺された兵士はRenaultという名前らしい。親衛隊Bladeの隊長だったそうだ。
Renaultは偶然にも、崩れた膝を両手で支えるような形で事切れていた。まるで遂行しきれなかった任務を悔やんでいるかのようにも見えた。




私はRenaultの遺体を壁際に寝かせ、まぶたを閉じさせた。命を狙われている皇帝たちについていくのならば、私も武器を持っておく必要があるだろう。
襲ってきた暗殺者は、やられると鎧姿からローブをまとっているだけの姿になり、武器は残していなかった。Renaultの遺体から美しい模様が描かれたカタナと、予備のショートソードを持ち出し、皇帝たちの後を追う。



…と思ったら、既に鉄格子の扉を開けて先に進まれた上に、扉に鍵をかけられてしまった。親衛隊の1人が言った。
「ここにいろ。後をついてくるんじゃあない」
どうやら邪魔者扱いされたようだ。



途方にくれ、牢屋に戻るしかないかと思ったが、ふと側の壁がグラグラと崩れ始めるのが見えた。




崩れきった穴からはネズミが飛び出していった。獲物を見つけて無茶をしたのだろう。
穴は人口の洞窟に繋がっているようだった。







※1クロークMOD。Oblivion wiki JPで紹介されています。
※2魚の屋台MOD。Oblivion wiki JPで紹介されています。